ジャケットそのままに、1985年の「ロッキーⅣ/炎の友情」から33年後、世界王者のアドニス&ロッキー師弟に、ヴィクター&イワンのドラコ親子が挑戦状を叩きつけるストーリーは素晴らしい着眼で、初代シリーズファンも新クリードシリーズファンも楽しめる設定だ。副題の「炎の宿敵」を含めて全編オマージュと言っていいだろう。
前作の「チャンプを継ぐ男」のキャストを維持した上で、Ⅳのドルフ・ラングレン、ブリジット・ニールセン夫婦を用意した点も初代ファンには心憎いプレゼントだ。
Ⅳでは、アポロの弔い合戦と、米ソによる東西冷戦の雪解け時期に掛け合わせ、過去の恨みや報復の応酬ではなく、スポーツを通して平和への礎を築こうとするメッセージを発した、兎に角、政治色の強い作風だった。
観戦後に拍手するゴルバチョフ書記長が登場し、ソ連の運動物理学の粋を究めた科学トレーニング、妻のルドミラ・ドラコは政治局員と言う、今から観れば恐ろしく突っ込んだ内容だったが、ロッキーのシベリアでの孤独なトレーニングや劇的な音楽演出、ロッキーの試合後の演説シーンにより、スポーツの持つ平和への可能性を素直に信じたくなる感動の名作だった。
本作は父親の遺恨から開放されて自分の為に闘う息子達に焦点を当てているが、ロシアの政府主導型のスポーツ振興に対する反論は変わらないルドミラの冷酷な行動に表れていて、Ⅳからはパワーダウンしたが、スタローン達の製作意図や拘りには共感する。其れでこそロッキーシリーズの後継者だ。
イワンとロッキーとアポロ、三人の男達の背中は偉大だが、時代は変化した。再起を図りヴィクターと共に走るイワン、アポロの墓に新たな家族を報告するアドニス、息子ロバートと孫娘の家を訪れるロッキー。単に今の自分だけじゃない、親から子、子から孫へ、世代を越えた男達の誇りの伝承、そのシナリオの深みこそⅣを継いだ本作の真骨頂であり、心に染み込んでくる。
一方、音楽や演出は少し淡白で全体的に間延び感があり、前作同様にロッキーによる説明的な台詞が多い。確かにアドニスが優しく大人しいので士気を鼓舞するトレーナーが必要になるが、ドラコとの因縁を前に饒舌で自信満々なロッキーはイメージに合わない。またトレーニング場所はシベリアでなく米国メキシコ国境の荒れ地で、確かに劣悪だが静寂とは程遠く、ロックやラップが騒がしい。もう少し試合に向き合う迄の心理描写に工夫が欲しかった。全体的に音楽の稚拙さが惜しかった。
それでもⅣの偉大さを再認識し、家族を敬い大事にする大切さに心打たれる良作には違いない。エンディングのシルベスター・スタローンはまるで「ランボー/最期の戦場」の様で、此れが最後かも知れないと思うと寂しい。ロッキーを切欠に映画に愛されたスタローンが、映画への感謝を込めて男達の意志を子供達の未来に遺したのがクリード・シリーズだと考えている。
1976年からシリーズ作品と同じ時代に生き、運命に立ち向かう勇気と汚れなき愛情をロッキー・バルボアから貰えた事に、今更ながら感謝したい。